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“ノーコード&ローコード”がビジネスの現場をデジタルに変える

万能の業務改善ツール 、40年前からローコード

さすがAppleの系譜、俺はFileMakerを最高の開発ツールだと思っている

2025年05月26日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: Claris International Inc.

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 Appleの100%子会社 Claris International Inc. が提供するノーコード・ローコード開発ツール「Claris FileMaker(クラリスファイルメーカー)」は現場ユーザー自身によるシステム構築を40年前から支援してきた。今回はClarisの森本和明さんにFileMakerの製品コンセプトを聞くとともに、現場のさまざまな課題をFileMakerで解決してきた角川アスキー総合研究所の取締役である吉川栄治さんに話を聞いた。

40年前に生まれたFileMaker ― 現場の人がシステムを作る世界観

 「FileMaker」が誕生したのは、今からなんと40年前、1985年のこと。初代バージョンがリリースされて以来、FileMakerが一貫して追求してきたのは、「現場のユーザー自身が、課題解決のためにシステムを作れる」という価値だ。

 従来のシステム開発は、あくまでプログラムコードを扱えるプログラマーによるものだった。こうした「プロコード」の世界に対し、FileMakerは、コードを書けないユーザーでも扱いやすい開発ツールとして登場した。Claris法人営業本部 セールスエンジニアリングマネージャーの森本和明さんは、「FileMakerなら、プロの開発者ではない現場のビジネスパーソンでも、自らの課題を解決するためのシステムを作り、データを管理できます」と語る。

Claris法人営業本部 セールスエンジニアリングマネージャーの森本和明さん

 こうした現場主導のアプリ開発は当時は「エンドユーザーコンピューティング」や「ラピッド開発」と言われていたが、今では「ノーコード・ローコード」や「市民開発」と言った言葉に置き換わっている。ペーパーレス化やクラウド活用が進んだ現在でも、現場によるシステム開発は「内製化」という文脈で、IT利用における普遍的なテーマとなっている。森本氏は、「現場の人が、現場の人のためにシステムを作れる──これこそがFileMakerの本質です」と述べる。

 一方、技術的にはこの40年でクライアント/サーバー型から、Webアプリケーションへのシフトが進み、モバイル対応も重要なテーマとなった。FileMakerもその流れに応じ、新しい技術を取り入れてきた。「ここまで歴史の長いノーコード・ローコードツールは他にありません。FileMakerは“古い”のではなく、40年にわたって蓄積された機能や業務改善の知見、そしてユーザーからのフィードバックをもとに進化を続けているのです。」(森本氏)(関連ページ:FileMaker は時代遅れ?(Claris))。

 FileMakerで開発できるシステムは、販売管理や顧客管理システムなど一般的なアプリから、大規模・複雑な生産管理システムまで。極端に言えば、「できないことはほとんどない」とも言える。特に多いのは現場の業務負荷を軽減するためのアプリ。森本さんは、「たとえば、製造現場でこれまで作業員が紙に記録し、オペレーターが手入力していた作業日報を、iPadから直接入力できるようにするアプリ。こういった分野はFileMakerの得意領域です」と語る。

 iOSデバイスとの親和性のよさは、Appleならではと言える。「たとえば、カメラで撮影した画像からバーコードを読み取ったり、NFC・位置情報・iBeaconなど、iOSが持つ各種機能をアプリに組み込むのは、FileMakerが得意とするところ。モバイルデバイスを活用した現場業務には最適だと思います」(森本さん)。

ノーコードとローコードの”いいとこ取り”ができるFileMaker

 FileMakerの大きな特徴の1つは、ノーコードとローコードのメリットを両方とも享受できるという点だ。

 一般的にノーコードツールは、ドラッグ&ドロップでシンプルにシステムを構築できる反面、柔軟性や機能面に制約があることが多いのが実情。その点、FileMakerは「制約の少なさが特徴」という。柔軟性や拡張性に優れ、機能的にもプロコードのツールに比べて、見劣りはしないという。

 実際、FileMakerで構築するシステムは、ユーザー操作を受付けるユーザーインターフェイス(UI)、処理を記述するビジネスロジック、データを格納するデータベース、この3つのレイヤーを、コードを一切書かずに構築することが可能だ。

 UIの作成は、パーツをドラッグ&ドロップすることで簡単に行える。ビジネスロジックの部分は「スクリプト」として用意されており、あらかじめパーツ化された処理を並べることで、一連の処理が完成する。森本さんは「条件分岐や反復処理、変数などを利用したい場合でも、子供向けプログラミング学習ツールと同じく、コードブロックを並べていくだけで、処理が完結します」と説明する。

 その一方で、Excelのように関数を活用した計算式も利用できるため、かなり複雑な処理もコードを記述することなく実行できる。森本さんは、「FileMakerではコードを書く必要はないのですが、処理の流れを考えるプログラミングの素養は必要になります。その点は、通常のノーコードツールに比べて開発の要素が強いと言えるかもしれません」と語る。

 そしてもう1つ、FileMakerならではの大きな利点が「オンプレミス環境での利用が可能」という点だ。クラウド利用が前提の時代になったとはいえ、今でもオンプレミスの基幹システムやERP、LGWAN(総合行政ネットワーク)内の自治体システムや住基ネットなど、クラウドに出すことが難しいシステムは多く存在する。FileMakerは、こうした閉じたネットワーク環境でも柔軟に対応できる点が評価されている。

 森本さんは、「インターネットに接続できないクローズドな環境でも利用できるという点は、医療機関や自治体のほか、航空会社や航海中の船舶への導入にもつながっています」と語る。クラウド前提のノーコード・ローコードツールが多い中、FileMakerは運用環境に対する柔軟性と選択肢の広さという点でも一線を画している。

奨学金で購入したMacintoshにバンドルされたFileMakerと四半世紀

 このFileMakerを四半世紀にわたって使いこなしてきたのが、角川アスキー総合研究所取締役の吉川 栄治さんだ。「FileMakerで取締役にまで出世できました」と笑うが、社員の私から見ても、あらゆる現場のリクエストにFileMakerで応えてきたのは間違いない。

角川アスキー総合研究所取締役の吉川 栄治さん

 FileMakerとの出会いは、大学時代にさかのぼる。「月刊アスキーの特集を読んでパソコンにあこがれ、いただいた奨学金は全部Macintosh LC575につぎ込んだ(笑)」という当時の吉川さん。そのMacintoshにバンドルされていたのが「クラリスワークス」で、そこに入っていたのがFileMakerだった。

 当時のFileMakerは「カード型データベース」と言われており、入力フォームとデータベースがセットになったアプリケーションだった。「データベースの概念はあまりなかったのですが、ちょうど家にあるCDや本をリスト化できるのでは?と思って使い始めました」と吉川さんは振り返る。

 社会人になってからは、FileMakerを自ら購入して利用していた。「1本買うともう1本付いてくるというキャンペーンをやっていたので、友達に買ってもらって、信者を増やしていました(笑)」とのこと。その後もバージョンアップを続け、会社でも請求書を作るのに使い始め、FileMakerが業務でもきちんと利用できることを実感した。また、Webビューアー機能が搭載されたことにより、Webデータを取り込んだり、Webページを作るなど、できることが格段に拡がったという。

 趣味でも使えるし、業務でも使える。加えて、アプリケーションの作成が1人で完結できるのが、吉川さんにとって大きなメリットだった。「僕のようにプログラミングスキルはないけど、なにか作りたいという人は多いと思う。でも、なにかを作るために、人にお願いするのも敷居が高い。1人で全部完結したいという想いはめちゃ強かった」と振り返る。

 その点、FileMakerはユーザーインターフェイスも、データベースも、すべて1人で設計できる。「ちゃんとシステム作ろうとすると、専門のエンジニアが必要になるじゃないですか。でも、FileMakerであれば、1人で作れてしまう。これはすごいなということで、どんどん変態的な使い方を極めるようになってしまいました」と吉川さん。「汎用的な業務はパッケージやSaaSでカバーできるんですが、FileMakerなら独自の業務をシステム化できるんです」と森本さんも応じる。

ラーメンWalkerキッチンの実用例 現場スタッフでここまでできる

 そんな1つの変態的な使い方、独自の業務として実例に挙げたのが、弊社が手がける「ラーメンWalkerキッチン」である。

 角川アスキー総合研究所が刊行する定期誌の「ラーメンWalker」。そこに登場する店舗に時限出店してもらうのが、東所沢のサクラタウンにあるラーメンWalkerキッチンになる。このラーメンWalkerキッチンのWebサイトを立ち上げたのが吉川さんで、裏で使っているのがFileMaker。「店長のプロフィールや作成したYouTube番組など、散らばっているコンテンツをまとめるのに、FileMakerはとても相性がいいんです」と吉川さんは語る。

 たとえば、ラーメンWalkerキッチンでは、出店してもらう店舗のカードをFileMakerで生成している。「カードの中身は毎回変わるのですが、そのたびにデザイナーにお願いして、レイアウトを作りなおしてもらうのは大変。でも、FileMakerを使えば、スタッフはテキストと写真のURLを指定するだけで、カードが自動的に生成されるので、あとは印刷するだけ」と吉川さんは語る。

FileMakerならラーメンWalkerキッチンの店舗カードを簡単に生成できる

 このアプリケーションは、長らく吉川さんが続けている年賀状の住所管理システムから発想を得ている。「もはや年賀状を出すのではなく、FileMakerを更新するのが目的になっている」とのことだが、住所管理こそFileMakerのお手の物。最近は、Webビューアーの機能を活用し、CSSでスタイルを設定すると、縦書きレイアウトまで可能になる。「週アスの誌面レイアウトもFileMakerでできるのではないかと思って、いま試行錯誤しています」と吉川さんは語る。

 なぜFileMakerを使い続けるのか? 改めて吉川さんに聞いてみたところ、最初に挙げたのは優れたユーザーインターフェイス。「やはりApple製品に慣れ親しんだ身からすると、迷わずに使えるのは大きい。このメニューを押すと、この操作ができるなみたいな感覚が肌に合う」と語る。あとは「代替となる製品がない」とのこと。「ここまでなんでもできるツールって、FileMaker一択なんですよ」と吉川さんは語る。

AIとの連携で社内のFileMakerはさらに進化する

 非IT人材がFileMakerでアプリを内製化し、業務課題を自ら解決できるようになると、システム開発の在り方そのものが大きく変わる。「パワフルなテクノロジーをすべての人へ」という理念を掲げるClaris社が目指してきたのは、まさにその世界観だ。

 「FileMakerの導入が進んでいない組織では、現場が情シスから与えられたツールを“仕方なく使う”ことも少なくありません。しかし、FileMakerで内製化を進めている組織では、現場から自然にリクエストが上がってくるようになります。自分たちの手でデジタルを活用しながら業務を変えていこうという“改善意識”が、組織のカルチャーとして根づいていくのです。これはDXにおいても非常に重要なポイントです」と森本さんは語る。

 そして、吉川さんも実際に長らく現場からのリクエストに応じてきた。「日頃から、『FileMakerならなんでもできる』と豪語しているので、社内からいろいろな案件が持ち込まれます。でも、実際になんでもできちゃっているのがFileMakerのすごいところなんです」と吉川さんは語る。

 最近、吉川さんが始めたのは、AIとFileMakerの連携。ビジネスロジック部分でのスクリプトをChatGPTに記述してもらったり、エンドユーザーがAIを利活用するためのユーザーインターフェイスとしてFileMakerを使っている。「AIのおかげで社内のFileMakerがさらに強力になっています」と吉川さんは語る。

 FileMaker自体も進化を続けており、昨年には「セマンティック検索」機能が追加された。これは、自然言語で検索でき、完全一致しない文字列であっても意味が近いデータを抽出できる。今後は、AIを活用してFileMaker内のデータをより有効に使うための機能や、AIによるアプリ開発支援機能(AI駆動開発)も順次拡充される予定となっている。吉川さんは、「FileMakerのデータを利活用するためにRAG(Retrieval-Augmented Generation)を構築したり、外部サービスを使うのは手間なので、すべてFileMakerで完結する機能はとても期待しています」と語る。

FileMakerトークが止まらない二人

職場の「Workplace OS」として、FileMakerが業務課題の解決を実現する

 FileMakerを取り巻くサービスの拡充も相次ぐ。Claris ConnectはSaaSとの連携を容易に行なうためのiPaaSで、グローバルのSaaSのみならず、国内のSaaSもカバーする。処理の起点であるトリガーと処理の流れを表すフローはGUIで設計でき、もちろんFileMakerとも連携できる。

 近々提供開始が予定されているClaris Studioはクラウドベースのフォーム作成ツール。あらかじめ用意されたフォームやギャラリー、カンバンなどのWeb画面をカスタマイズし、そのままWebに公開できる。社内サイト用のFileMakerに対して、社外サイト用のClaris Studioという位置づけだが、今後は両者の連携も容易になるという。

 今後Clarisは1つのプラットフォームとしてユーザーに提供されるようになる。ノーコード・ローコードツールのFileMaker、iPaaSのClaris Connect、フォーム作成ツールのClaris Studioなどを相互連携させ、できることがさらに増えるという。あわせてClarisプラットフォームの各ツールを利活用するための学習コンテンツも拡充しているとのことだ。

 「われわれは『Workplace OS』と言っていますが、まさに職場やオフィスのOSをイメージしています。なにか課題があれば、FileMakerでシステムを作り、課題を解決し、他のサービスや組織とも連携していく。こうした世界観の実現にFileMakerが寄与できると思います」と森本さんは語る。

■関連サイト

※Claris International Inc.について:クラリス・ジャパン株式会社は2020年9月1日付でApple Japan, Inc.と合併し、日本国内におけるClaris FileMaker製品をApple Japan, Inc.が販売しています。

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