ベビーマッサージ講師・小堺友美さん/会社員から一転。数ヶ月先まで満席の人気教室ができるまで
神奈川県藤沢市在住のベビーマッサージ講師、小堺友美さん。大手酒類メーカーに勤務していたが、育休復帰後、仕事と子育ての両立に悩み退職を決意。第二のキャリアとしてベビーマッサージ講師の道に進もうと、資格を取得。しかし夫の転勤と重なり、思いがけず海外でスタートさせることに…。資格取得から約6年後、念願の自宅教室を開業。数ヶ月先まで予約が取れない大人気教室に成長させ、2600組の親子と出会ってきた小堺さんのライフシフトとは。
仕事も子育ても中途半端。自分を責める日々…!
小堺友美さんは新卒で大手企業に入社し、人事部、コンプライアンス推進部でキャリアを積んだ。結婚後、夫婦でサーフィンを始めたことをきっかけに、藤沢市に移り住む。その後、2人の子どもに恵まれた。
4年間の育休が明け、広報部に配属された小堺さんは、仕事と家庭の両立の難しさに直面する。朝7時から保育園に子どもたちを預け、毎日片道2時間弱の通勤。時短勤務であっても保育園に着くのは18時ギリギリ。家族全員で全力疾走をしているような毎日だったという。
「成果も出せない自分はなんてダメな人間なんだろうと、周りの人と比べてばかりいました。あまりにつらくて、よく家で泣いていた時期もあって。同期の女性たちはいわゆるバリキャリという感じ。女性は子育てしながらでも成果を出すことを期待されている中、私は仕事だけではなく子育ても中途半端になっていると落ち込む日々でした。ある日、エレベーターでフロアボタンを押そうとすると手が震えていたんですね。そんな自分の手を見て、『これはもう限界かもしれない』と思いました」
怒涛の生活を1年半ほど続けた小堺家。目前に長男の「小一の壁」が迫っていた。
「就学後のことを考えた時、『私は本当にこの働き方がしたいのだろうか?私が思い描いている家族像とずれていないか?』と自問しました。
改めて自己分析をして本当にやりたいことは何か、どんな人生にしていきたいのか、自分自身と向き合う時間を作りました。大学では教育学を学んでいたこと、赤ちゃんが大好きなことから“ベビーマッサージ”にたどり着きました」
満員電車でベビーマッサージの本を読み、知識を深めた。知れば知るほどこれを仕事にしたいという思いがつのり、休日にベビーマッサージの指導者講座を受講し、資格取得に向けて課題にも取り組んだ。
数分でも、わが子へマッサージをする時間に心が満たされた。保育園からは「以前よりもとても穏やかに過ごしている」という言葉をもらい、間違いなく子どもたちにとっても、私にとっても大切な時間になっていると確信した。
「ベビーマッサージ以外のことを始めていたらここまで本気にならなかったと思います。触れることの重要性を、私自身が実感していたから。どんな年齢の親子にも『触れる』ことの素晴らしさを伝えたいと強く思ったんです」
無事に資格も取得し、ついに退職を決意。長男の就学に合わせ、自宅で教室を始める準備を進めていた矢先、予想外のことが起こった。
なんと夫の海外転勤が決まったのだ。行き先は、タイ、バンコクだった。
バンコクで450組にベビーマッサージを指導。まずはボランティアから
退職後、すぐに家族でタイへ渡った。もう、満員電車に揺られ、分刻みで生活しなくてもいい。常夏の国で、自分へのご褒美タイムとしてゆっくり過ごすこともできる状況だ。
しかし小堺さんは違った。日本人会に出向き、毎週ボランティアでベビーマッサージ教室を開催。のべ450組の親子にベビーマッサージを指導した。日本人以外の親子にも指導をする機会にも恵まれた。そのクラスでは説明よりもリラックスして流れに身を任せ、今を楽しみながら赤ちゃんと過ごしたいという要望があり、小堺さん自身もより肩の力を抜くことができるようになった。
「1から100まで全部説明しなくてはと気張っていたのですが、この経験で私自身がリラックスし、結果的に参加してくださる親御さん、そして赤ちゃんたちにも心地よい場所を提供できるようになりました。
それに、参加してくれた親子の幸せそうな笑顔を、間近で見たことで、気づいたこともあって。会社員の頃は世の中に数えきれないほど多くの顧客がいたはずなのに、本当に喜んでもらえているのかわからなかった。でも今は目の前の親子から、仕事を通じて私自身が幸せをいただいていると心から感じられるようになって。まさに天職だと思えるものに出合えたんです」
帰国後、チラシと名刺を作り一から再出発
4年半のバンコク生活が終わり、帰国。ようやく、念願の自宅教室の準備に取り掛かるも、身近な子どもたちは成長し、赤ちゃんがいる家庭との繋がりがない状況だった。
「まずは藤沢市役所へ、私にできることはないかチラシと名刺を作って相談に行きました。ご縁あって、子育て広場と児童館でボランティアという形でクラスを持たせてもらえることに。並行して夢の自宅教室開業のために、3ヶ月かけてホームページを自分で制作し、初めてインスタグラムも開設しました」
2019年、ついに自宅教室「2525 with you」(にこにこウィズユー)をオープン。資格を取得してから、約6年の月日が過ぎていたが、地道な努力と誠実でひた向きな姿勢により少しずつ口コミが広まった。
そして現在、数ヶ月先まで満席の大人気教室にまで成長。また、タイでの指導実績が評価され、指導者養成講座も開催できるように。これまでに日本全国や海外を含め250名程のベビーマッサージ講師を育成している。評判は広がり、様々なメディアへの出演も経験した。
レールの上なんて歩まなくていい…!
これまでの経験で、精神的に鍛えられたという小堺さん。大事にしている価値観とは。
「1つ目は『本人が幸せを感じているなら、周りがとやかく言うことではない』ということです。会社員時代の私はとにかく周りの評価を気にして、比較して、疲弊していました。でもタイでの生活でもっと自由に生きていいことに気づいたんです。
例えば、バンコクで全身キティちゃんの服を着たおじいさんがスクーターに乗っているのをみた時、一瞬娘は驚いていましたが『きっとすごく好きなんだろうね!』と言えた自分がいました。子どもも大人も関係なく、本人が、それが大好きで、大切で、幸せだと思って生きているならいいじゃない、と。
私たちの世代って、自分が好きかどうかよりも、親の期待に応えるために『このレールの上を』という考えが当たり前だった。でも海外での経験から、自分らしく生きることこそが重要であり、レールの上を歩くことが全てではないと考えられるようになりました。
2つ目はどんなに大変でも何かに繋がる、意味のあることだと思って、『地道な努力を積み上げていくこと』。会社員の頃は、当たり前にお給料をいただくことができたけれど、フリーランスだと自分が何か行動しない限りは何も進まないですし、もちろんお金も得られません。だからこそ、自己管理して、やるぞと決めて、先に宣言して追い込みながら自分を奮い立たせています。
私の場合、会社員の頃に培ったお客様や取引先との接し方が今に生きていると思う瞬間もたくさんあるんです。どの瞬間の努力も無駄ではないという実体験があるからこそ、今でも『1つ1つのことを丁寧に積み重ねていくこと』を大切にしています」
将来は海外との二拠点生活も叶えたい
念願の自宅教室は大盛況。指導者育成にも精力的な小堺さんの今後の目標とは。
「今年は本の出版に挑戦します。触れることの大切さや素晴らしさを伝える子育て本が書きたくて。ワクワクしながら動き出しています。
また、今後は、ベビーに限らず幼児期や学童期のお子さんへもできるタッチケアを広めていく協会を作りたいと考えています。これまではすべて1人で全部やってきましたが、経験や大切にしたいことを盛り込み、それをチームで広めていくことで、もっと多くのご家庭にタッチケアを伝えたいという想いもあります。
もちろん世の中にはすでに多くのベビーマッサージやタッチケアの協会があります。しかし、それぞれの協会には異なる特色があって。自分に合う環境を見つけることで、大きく変わらずとも、輝きを放つ人はたくさんいるはずです。だからこそ、天職だと思える仕事や環境が提供できるチームを作りたいです。
ベビーマッサージを学ぶのは、 “現役のママ”だけだと思われがちですが、最近は子育てを終えた方が地域のお母さんたちのサポートをしていくためやお孫さんのために資格を取得したいと学びに来る方もいらっしゃいます。「タッチ=子どもの気持ちを尊重しながら優しく丁寧にふれること」が家族や地域の伝統として、あたり前のように代々受け継がれるものになってほしいと思うから、今できることを地道にやっていきたいです」
自由な発想で人生を謳歌する小堺さん。夫も独立を決意したという。子どもたちの成人後は、海外との二拠点生活も視野に入れている。タイでの経験から、小堺さんだけではなく家族全員で「自分らしく生きることが一人ひとりの幸せにつながる」という価値観を共有しているようだ。
Profile:小堺友美
こざかい・ゆみ/株式会社オレンジモーメント代表。ベビーマッサージやタッチケアのお教室「2525 with you にこにこウィズユー」主宰。長男の小学校入学をきっかけに大手酒類メーカーから転身。タイ・バンコクでの4年間の講師経験を経て、神奈川県藤沢市の自宅や児童館などでベビーマッサージクラスや幼児期・学童期向けのタッチケア講座を開催し、のべ2600組の親子に指導。また、JABC日本ベビー&チャイルドケア協会のトレーナーとして講師養成講座を開催し、国内・海外あわせて約250名の講師を輩出。「天職」に出会えたと心から幸せに感じながら、「ふれること」の大切さと素晴しさを多くの人に伝え続けている。
小堺友美さんのinstagramはこちら。
小堺友美さんのHPはこちら。
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