エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のまち散歩 第14回

【メタ観光・台北旅行記① 台湾を歩く】 10年ぶりの台湾訪問で過去と現在と未来が重なる台北のメタな魅力に改めて痺れた

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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 前回、台湾を訪れたのは2015年。台北で、KADOKAWAの発表があり、会場周りはもちろん、当時は刊行されていた台北ウォーカーなどもあって、台湾角川の事務所を訪ね、さらには誠品書店、士林夜市をめぐり、足を延ばして、国立故宮博物院や九份も行ってきた。この時は、観光名所を巡ったのだが、今回は、一般社団法人メタ観光推進機構の理事6名で、台北で実装されている時代や建築、カルチャーを多層的に重ね合わせている街づくりを見て回ってきた。ショート連載で、今の台北を紹介したい。第1回は複合文化施設を紹介する。

台北市信義区の松山文創園区にて筆者

台北市信義区の松山文創園区。全体図

台北市信義区の松山文創園区。左からメタ観光推進機構の真鍋陸太郎理事、牧野友衛代表理事、菊地映輝理事

 今回の台北視察旅行は、2月14日から2月16日の3日間。今回、台湾を訪れた理由は、2021年にスタートして以来、東京や長崎、奈良、香川、愛媛、福岡など日本各地で展開してきた「メタ観光」を、海外からも見てみようということで、歴史的な経緯や、近年の観光やビジネスの旺盛な往来とともに(台湾からの訪日客数は、2024年11月の時点で累計555万人以上で、韓国・795万人、中国・637万人に次ぐ第3位となっている)、特に文化的な交流(とりわけサブカル松菸店チャー)で親近性が高い台湾の台北市で「まち歩き」を行った。

 まさにメタ観光的な、歴史の積み重ねに最新のカルチャーを組み合わせた注目の文化ゾーン、松山創園区や華山1914文化創意産業園区をはじめ、OMA / レム・コールハース+デイヴィッド・ジャーノッテンが設計した特徴的な建築が印象的な台北表演芸中心、台北で最も古い問屋街「迪化街」、日本統治時代に開設されたこの市場は「新富市場」などの様々なマーケット、日本から進出しているドン・キホーテ忠孝新生活、人気の新施設・誠品生活松菸店などの商業施設、伝統的な食のお店から最新カフェ、クラブ、バーまで駆け足で巡った。

 また、台北では、以下のお二人にも、お話をお伺いした。連載で、また、お二人の話を紹介したい。

 台北と東京の2拠点生活をしている初耳 hatsumimi 編集長@台湾の小路輔さんには、カルチャー情報などのお話を聞いた。「初耳 / hatsumimi」というWEBマガジンは台湾で展開されており(https://hatsumimi-mag.com/)、イベントも開催されている。

小路輔さん

 また、同じく、京都で活躍をされている書家の川尾朋子さんも、今は、台北と京都で2拠点生活をされていて(台北では主に語学の勉強)、今回はお茶やマッサージのお店を紹介していただいた。https://kawaotomoko.com/

川尾朋子さん

 今回、巡ったスポットを以下の地図にまとめているので参照されたい。

2025年メタ観光台湾研修旅行 - Google マイマップ

日本統治時代のタバコ工場と酒造工場が独特の建築を活かしながらスーパー・ポップな空間に生まれ変わった

 今回紹介するのは、日本統治時代の広大な工場跡地を活用して、歴史の空気感を残しつつ、自由で大胆なミックスカルチャーを成功させた二つのエリア。どちらも、日本初期現代主義(Early Japanese Modernism)スタイルの建築。

 このスタイルは、大正から昭和初期(1910年代〜1930年代頃)にかけて日本で発展した建築やデザインのスタイルを指す。この時期は西洋のモダニズム建築が日本に影響を与え始めたタイミングで、伝統的な和風建築と西洋の新しい技術や美意識が融合した過渡期にあたる。

 特に、台湾や朝鮮半島など当時の日本統治地域で建設された公共施設や工場にその特徴が色濃く残っている。 シンプルで機能的な、装飾を抑えた直線的なデザインが主流。モダニズムの「形は機能に従う」という考えが反映されている。鉄筋コンクリートや赤レンガが多用され、新しい技術を活かしつつも耐久性や美しさを重視している。 当時の日本は植民地統治や産業振興を進めるため、見た目にも威厳を持たせつつ実用的な建物を目指した。当時の有名建築家には辰野金吾もいて、彼の影響を受けたシンプルで力強いスタイルが初期現代主義のベースになっている。

■松山文創園区(Songshan Cultural and Creative Park)

 松山文創園区は、台北市信義区にある約6.6ヘクタールの文化と創業の拠点。元々は1937年に建てられた「台湾総督府専売局松山煙草工場」というタバコ工場で、日本統治時代に作られた。終戦した1945年に台湾省専売局に接収され、「台湾省専売局松山タバコ工場」に改名。タバコの生産は1998年に終了した。

 その後、2001年、台北市政府により第99番目の市の史跡に指定され、市の史跡(オフィス建物・1~5号倉庫・製造工場・ボイラー室)・歴史建築物(検査室・機械修理工場・育児室)・特色建築(バロ所在地:台北市信義区光復南路133号ック庭園・生態景観池・浴場・多目的ホール)として整備された。

 近年はさらに、園区内の空間再利用を活性化させるため、芸術文学・文化創意・デザインなどのパフォーマンス活動と連動、台湾創意デザインセンターとの合作で「台湾デザイン館」を設置し、国内著名のガラス工房とガラスアートを融合した「小山堂」を創設。軽食レストラン(機械修理工場内)もあり、園区はデザイン・文化創意産業の基盤拠点へと格上げされた。

  工場時代の建物は典型的な「日本初期現代主義」で、赤レンガや大きな窓が印象的。敷地内には生態池やバロック風庭園もある。最初の専業タバコ工場として台湾の近代化工業の工場建物の先駆けとなり、レンガ・ガラス・銅釘が精細に施され、当時は工場のモデルと称された。

 併設された「誠品生活松菸店」には、本屋や雑貨店、パン屋などが入っている。近くには人気観光地の台北101や国父紀念館もある。 アクセスは、MRT市政府駅から徒歩5〜10分くらい。

 元々のタバコ工場の建築がかなりの部分維持され、歴史遺構としての保存がされていて、 そこに、カルチャー系の施設やスタートアップ企業が入り、公園として広い空間で多くのイベントも催されていて、メタ観光的な多彩なレイヤーの重なりがクリエイティブを誘発している。

所在地:台北市信義区光復南路133号
アクセス:MRT市政府駅(板南線)から徒歩約5〜10分。駅の3番出口を出て、忠孝東路を東に進むと園区の入口が見える
台北市政府観光伝播局サイト:https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/879

■誠品生活松菸店

 松山文創園区の中にある複合施設。誠品は台湾を代表する書店チェーンで、本だけでなくライフスタイルを提案するお店として知られているが、松菸店はその中でも特に規模が大きい。2013年にオープンした店舗で、3階建ての広々とした空間が特徴で、本屋を中心に、雑貨、飲食店、アート関連のアイテムなどが揃っている。

 1階の入口付近にはカフェや軽食を楽しめる「誠品食肆」があり、焼きたてのパンやスイーツが楽しめる。雑貨コーナーには台湾デザイナーによる文具や小物もそろっている。 2階は、メインの書店エリアで、台湾の本はもちろん、洋書や日本語の本も充実している。アートやデザイン関連の書籍が多めで、隣にはキッズ向けの絵本コーナーもある。 3階は、ライフスタイル雑貨やセレクトショップが中心。おしゃれなキッチン用品やアパレル、台湾らしいお土産品も見つかる。

 建築物全体は日本の建築家である伊東豊雄氏が設計、エリア内の歴史的建築物とマッチするよう、伊東豊雄氏は抑え目でありながら芯のあるデザインのスタイルを採用、建築素材の自然な風合いを存分に活かしている。
 
 建物の壁面をセットバックにしたことで設けられた緑ゆたかなベランダからは、松菸の歴史的建築物や自然の風景を一望できる。

 松菸店の位置付けは「クロスオーバー・パフォーマンス」。誠品書店、誠品シアター、誠品ホールを備えているほか、ハンドメイドクラフト、クリエイティブブランドなどもそろっている。同店は「台湾の光」をポイントにし、台湾のゆたかなクリエイティブパワーを表現している。人気の高い地元ブランドのほか、新しいデザインブランドを積極的に開発、育成している。
https://www.eslitecorp.com/eslite/

 同時に、充実した展示や販売イベントで、ブランド同士の異業種提携をマッチング、さまざまなクリエイティブコンテンツの相互交流を促進、現代的でライブ感のある文化クリエイティブの発信地となり、この場所ならではの雰囲気を作り、さらに「観光の文化クリエイティブスポット」となることを目指している。大きな窓や高い天井が開放感を感じさせ、外にはテラス席もある。すぐ近くに「誠品影城」(映画館)もある。

所在地:台北市信義区菸廠路88号(松山文創園区内)
営業時間:
【売場、2F誠品文具、3F誠品兒童】11:00-22:00
【3F 誠品書店、誠品音樂】24 Hours
【3F eslite cafe】10:00-24:00
【3F 聚聚樓eslite garden】11:30-21:30
【B1誠品画廊】11:00-19:00(定休日:日曜日、月曜日)
公式サイト:https://www.eslitecorp.com/eslite/

■華山1914文化創意産業園区

 同施設は、台北市の中心部、中正区にある文化とクリエイティブのスポット。約6ヘクタールの敷地に、赤レンガ造りのレトロな建物や緑豊かな広場が広がっていて、カフェ、ショップ、ギャラリー、シアターなどが入っている。地元の人には「華山」と略して呼ばれ親しまれている。

 元々は日本統治時代の大正3年(1914年)に建てられた酒造工場で、「芳醸株式会社酒造廠」としてスタートした。大正11年(1922年)に日本統治時代の専売制を取り入れ、「台灣總督府專賣局台北酒工廠」という名に変更した。その後、台湾総督府に買い取られ、戦後は台湾省菸酒公賣局の「台北第一酒廠」として、米酒、紅(露)酒、藥酒、燃料酒精、各式水果酒、紹興酒など多種の酒類を生産してきた。

 1987年に工場が桃園の龜山に移ってからはしばらく放置されていて、一時期は廃墟状態だったが、1999年頃から、台湾の文化団体やアーティストがこの場所を活用し始めて、アートやイベントの場として再生、2005年に正式に「華山1914文化創意産業園区」として生まれ変わった。

 今では特にクリエイターや若者に人気で、展示会やポップアップストア、ライブイベントなんかも頻繁に開催され、外の広場は24時間開放されている。アクセスは、MRT忠孝新生駅から徒歩5分くらい。メタ観光的にうれしいのは、当時の面影を残しつつ、復元するように気をつけていることで、建物内部は打ちっぱなしのコンクリートだったり、掘り出したレールをガラスで保護して見えるようにしている。放置されていた時期に、若者が活用をはじめ、今や文化ゾーンとして、線路の枕木を残して道の舗装をして、大樽の撤去した後をそのまま空けているなど、歴史的な空間と遊び心、ポップカルチャーの大胆な展示が交差する多層レイヤーの楽園になっている。

 松山文創園区も華山1914文化創意産業園区も大規模な産業遺産を大胆に文化創発エリアに読み替えて、クリエイティブ的にも商業施設的にも公園としても大きな成功を収めているが、翻って、日本で同様の事例を考えた場合、例えば大阪城公園は思い切ったPFIで歴史遺産と商業施設を同居させていたり、横浜の赤レンガ倉庫、函館の金森赤レンガ倉庫などが若干近い事例としてイメージできるが、政府レベルの高度に多層的なレイヤー設計には至っていないように感じる。実に興味深い「街づくり」になっている。

所在地:台北市中正區八德路一段1号
公式サイト:https://www.huashan1914.com/w/huashan1914/index

■牧野友衛・メタ観光推進機構代表理事のコメント
メタ観光推進機構公式サイト:https://metatourism.jp/

「地図という「絵」の上に意味や価値の情報を重ね、多層的なレイヤーとして見るメタ観光において、その土地に歴史の変遷があるほど、積み重なる意味のレイヤーが増え、面白さも増す。

 台湾は、この百数十年の間に清、日本、中華民国と統治が変わる歴史を経験しながらも、その痕跡を残したまま、新たなものが積み上げられている場所だ。今回訪れた華山1914文化創意産業園区は、日本統治時代の1914年に建てられた「芳醸株式会社酒造廠」であり、松山文創園区は1937年の「台湾総督府専売局松山タバコ工場」を、それぞれ新たな文化施設として生まれ変わらせた場所である。

 また、北投の温泉地は日本統治時代に温泉地として開発され、戦前は観光地に、戦後は「歓楽街」として発展し、現在は図書館やカフェが作られて新たな文化発信基地となっている。

 日本では震災や戦争でこうした施設自体が失われただけでなく、再開発で取り壊されたりして、過去の名残を見つけることは難しい。案内板や地名にのみ過去を示すことがあるのみだ。

 しかし台湾は物理的に残るため、メタ観光的な価値の可視化が日本よりも分かりやすい。その点からも、今回の台湾での研修旅行は、改めて今あるものの価値を正しく評価し、将来に残すことの重要性に気づかされるものとなった。

 迪化街や新富市場などのように過去の建築をそのままにリノベーションして使い続けているのを台北市内の至るところで目にすると、メタ観光が日本でその土地の歴史や意味、価値を地図の上に残すことの必要性を感じるとともに、失われる前にその価値の可視化にできることがあるのではないかとも同時に思った」

台北にてメタ観光推進機構の理事。左から2人目が牧野友衛・代表理事、左から真鍋陸太郎理事、3人目が齊藤貴弘理事、4人目が伏谷博之理事、右端が筆者

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